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鹿賀丈史がパプリカを食べる人で別所哲也がハムの人で

コック帽の中には何が入っているのか
気になる

あれだけの高さがあるのだ
「何も入っていないですよ」
ということはなかろう
いったい何が入っているのか
気になる

ぼくは気になることがあると
深刻なまでに気になりまくってしまい
食事がまったく喉を通らなくなる
という反自然的な哲学者体質ではない
丈夫な体に産んでくれた母に感謝だ
なぜといってここは定食屋である
とんかつ定食が運ばれてきた
あのコック帽の中にはいったい
ああ気になる

順当にいくとウサギかハトだ
もちろん仕込み前の状態で
そう考えてみてぼくはぼくの正気を疑う
どのルートを辿ればそれが順当になるのか
だってほら断面図化してみてよ
なんとか百科事典に載ってそうじゃん
あっすいませんおかわりを
(ご飯のおかわりが無料なのだ!)

夢が詰まっているのです
というチープな常套句
最後の仕上げで料理にまぶすんですがね
夢ってやつは逃げやすいですから
それまで帽子に入れておくんですよ
もちろんタッパーでも良いんですが
でもそれだと何だか味気なくって
だったらそれ用の帽子作ったげるねって
ええうちの家内がですねえへへ
へえそうなんですねと納得するほど
ぼくは二十世紀的ではない
ゲレンデでロマンスの神様に会えたら
少しは信じる気にもなれるのだが

一定量のラジウム
ガイガーカウンター
青酸ガス発生装置
そして猫が入っている現実は
それらが入っていない現実と
重なりあった状態にある
そしてコックは終業時に二択を迫られる
入っているにマークした方のみお答え下さい
猫は生きていると思いますか?
それとも死んでいると思いますか?
1.生きている
2.死んでいる
そう思った理由をお答え下さい(記述式)
向こう側の世界だけでも
せめてしあわせでいてほしいから
さてコックはどちらにマークしたのか
気になる

仮に何も入っていない場合
即ちそれはデッドスペースということになり
匠の技が可及的速やかに要求される
ただの収納として利用する者が二流と呼ばれ
収納に+αを盛り込む者が一流と呼ばれる
例えば階段としての機能
例えばテーブルとしての機能
例えば収納を収納する収納としての機能
そしてそれを収納する収納と以下同文に続く
消失点はどこまでも引き伸ばされ
小数点以下の収納に宇宙が生まれる
その収納は匣と記述される災厄であり
人は匣の底にあるとされる希望のみを求め
文字通りの底なし収納に身を投じる
気づいたときには前に進めず引き返せず
匣の底に希望があるという希望は
万人にとっての希望であると言えるのか
それはコック帽の中には何かが入っている
という希望と同様に怪しく不確かなもので
なんということでしょう
場合によって希望は絶望より質が悪いときた

外付けHDDという思いつき
ジャンル別の料理法を記録保存する装置
帽子の高さは保存容量に比例する
だから一流シェフの帽子は高いのかなるほど
ということはだ
シェフの気まぐれランチなるものは
つまり帽子を選ぶところから始まるのかも知れない
今日は肉料理に特化したシェフの帽子
今日は魚介料理に特化したシェフの帽子
今日は今日は今日は……
世に名高いシェフともなれば
その帽子コレクションは十指に余る
曰く『マッド・ハッター』
まったくシェフがシェフなのか
それとも帽子がシェフなのか
これはそういう問題だ
時に多国籍料理を得意とするシェフは
きっと中国変面を体得しているに違いなく
中国と言えば満漢全席が有名だが
それを網羅している帽子の高さとは
いったいどれほどのものなのだろう
疑問と妄想は尽きそうにない

これで750円なのだから
この定食屋はかなりお得だ。