Tポイントカードを作るタイミングがわからない

必要なのは単三か単四か
それが問題だ


約300円が生きるか死ぬか
コンビニの電池売り場で
Live or Dieの瀬戸際に立たされたぼくは
頭のなかでリモコンのサイズ感を
多角度的に3Dシミュレートしつつ
確か単三だったよなと思うそばから
いや単四だったかも知れないと思い直す


〽︎どちらにしよおかな
〽︎イニミニマニモ

そのようなリズムで
東もしくは洋の神々に
この二択の選択権を委ねるのは
あまりというかとても気が進まない
「汝に試練を与えん」
とかそんなことを言われるに決まっており
大切な何かを捧げる羽目に陥りがちだ
ギリシャの神々の場合は特に


近くに湖がある場合は
湖の精が小林幸子的舞台装置で登場し
——貴方が落としたのは金の単三か銀の単四か
と聞いてくるに違いなく
そもそもの話何の解決にもならない
——そこが問題なのです
とイチから?イチから説明しろと?


左右の肩には単三と単四の営業マンがいて
「今回に限り安眠枕もお付けします」
とは決して言ってこないので
いまいち決め手に欠けるし
というかどっちでも良くなってきた
すでに頭の電池も切れかかっていて
そいつが単三なのか単四なのかは判らない
単三の営業マンも単四の営業マンも
どちらも玄関に右脚を突っ込んで
「是非お話だけでも」と聞かないので
外回りは大変だなあと残量3%の頭が思う


結局単三を買ってみて
いざリモコンの蓋を開けてみると
二本の単四が静寂とともに隙間なく
ぴつたりと入つてゐた
ああ、生きてゐる
とはならないのです京極先生


二択を外すという不条理
因果律の存在を確認し
高次の存在を意識する瞬間
信心深い者であればこの場合
おもむろに跪いて両手を組み合わせ
天を仰ぎながら陽の光に眼を細める
乗り越えられない試練などないのだ
とMっ気たっぷりに神に感謝を捧げ
単四を探しに巡礼の旅に出かける
この場合ギリシャを避けるのがベターであり
バチカンで謎組織の陰謀やらドッキリやらの
巻き添えを食らわないよう心すると良いよ


二兎を獲るという選択肢もあったのだと
今さらに冴え始める頭を呪ってみても
やはり切なさだけが募るばかりで
単三を力一杯握りしめてながら
斜め45度の角度をイメージしつつ
思いっきり遠投してみたくなるこの気持ち
歯を食いしばりながらそれに堪え
奥歯では二酸化マンガンの味が広がりだす
悔しさだけがひたすらに過充電される


大艦巨砲主義的思想は前世紀の遺物と化し
サイヤ人的際限なき戦闘力のインフレは
アナクロニズムの象徴にさえなりつつある
手の平サイズが幅を効かせる時代において
大きいことは良いことだという主張は
まるで愛煙家の肩身のように狭まり
きっと林檎人からヘイトスピーチを頂戴する
単三の場合が何かと多いような気がする
という思考もすでに時代遅れの老兵であり
死なずただ消え去るのみ、とその後に続くが
ジオングの脚は飾り』という説には
容易に頷けない何かがある


ゲームボーイ世代の私にとって
充電池の重要性は骨身に染みている
床に就く前の充電は当たり前で
電池が切れかかると画面を暗くしやり過ごす
通信ケーブルを持つ者はメシアであり
放課後を牛耳るアル・カポネであった
すげえゴーストがゲンガーになった!
ゲームボーイカラーの登場は鮮烈を極めた
ここいら辺から手の平サイズが台頭し始める


充電池を買うべきかどうかは頭になかった
単三なのかそれとも単四なのか
ただひたすらにそれだけが問題だった

人の記憶とは恐ろしく曖昧なものだと
人の判断とは恐ろしく揺らぐものだと

私の右手は胸前までは持ち上がるのだが
そこから先には進まずポケットへと消えゆく

その往復の数だけ記憶をさぐり
その往復の数だけ決心が揺らぎ

気づけばポテチを物色している自分に呆れ
うす塩ではなくのり塩に今回も落ち着く

単三か
単四か

ポテチは容易に選べるくせに
電池になると素直になれない
およそそのようなシーソーゲーム

とあるエゴと
とあるエゴにまつわる
とある恋話だけの特権ではない。