〈サン=ベルナール峠を越えるボナパルト〉 ナポレオンが嘶く馬にまたがるあの有名な絵画ですが、この間、その絵が服全体にプリントされていて、なおかつナポレオンの顔が猫になっている、という不思議な柄のジャケットを目撃しまして、そして幸運にもそれを…
そしてDは背中に走る痛みで目を覚ました。 どうやらおれは眠っていたらしい。Dは背中に鈍痛を覚えながらそう思った。はたしてどのくらいのあいだ眠っていたのか、それは定かではなかったが、しかしDには眠ろうとした記憶がなかった。目を覚ましたことで自…
おひとり様ですか、という店員の問いかけに、というよりはむしろ確認に、はい、と打てば響くように、しかしかろうじて聞き取ることができる声量で答えてしまったDだったから、やはりマニュアル通り、カウンター席に案内された。 カウンターならばどこでも良…
マグカップの中身はきっと冷めている。 街並みを一望できる窓際の席。そのいちばん右端に座ってノートのキーボードを叩いている女の後ろ姿を凝視しながらおれはそう思う。女は——正式な名称は知らないが——やたらと襞の多いゆったりとした黒い上着を着ていて、…
まるで音もなく這い回るなめくじのような粘性の沈黙に耐えられなくなったおれは、気の利いた話題をこの役立たずの喉からひねり出そうとした。今日の天気だとか、最近の調子だとか、そういうありきたりなやつではなく、気の利いた話題をだ。しかし、無駄だっ…
目には目を歯には歯をという考え方では、カワイイにはカワイイをという事態になりかねない。カワイイの欠片もなく、しかし犬猫の類いが好みである私にとっては非常に辛いものがある。限界の二文字が私の行く手を阻む。だがな、そんな世界、俺が否定してやる。…
「人は自分で檻を作り、その中で暮らす動物だ」 完璧な引用ではないが、このような一文を何かで見たか聞いたかした覚えがある。作品名はまったくもって思い出せず、それが小説だったか、漫画だったか、映画だったか、なんだったか。その記憶が脳のシワのいっ…
コック帽の中には何が入っているのか気になる あれだけの高さがあるのだ「何も入っていないですよ」ということはなかろういったい何が入っているのか気になる ぼくは気になることがあると深刻なまでに気になりまくってしまい食事がまったく喉を通らなくなる…
煙が風にのって流れてくる。ここは風下にあるらしい。私はとある駐車場にいた。どこにでもある、ありふれた駐車場。直径数百メートルに及ぶ黒色火薬の造花が夏の夜空を彩る。不思議なもので、その炸裂の一時だけはうだるような夏の暑さを忘れる。なぜ夏には…
「事は一刻を争う……もはや時間の問題だ」 いつだって時間が問題であり、時間が問題にならなかったことなどあるのか。いつだって時間が問題なのだ。3分ジャストで湯切りしたものと、2分半で湯切りしたものとでは、明らかにモノが違う。状況は秒単位で変化し続…
人生のヒロイン探しをしているのならば〈季節外れの転校〉などをやってみたりすると、人生という長期的な尺度でものを見た場合、存外に手っ取り早く見つかったりする。 窓際あたりの席で頬杖をつき、半覚醒気味の眼で見るとはなしに校庭に迷いこんだ犬を見な…
『9』『10』よりも『1』だけ少なく、『1』から順に数え9番目に位置する自然数。素因数分解で『3の二乗』。『7』に『2』を足す。『61』から『52』を引く。そうすると『9』が現れる。私が『はてブ』を開始して早4か月余。アクセス数0件などは当たり前で、たま…
必要なのは単三か単四かそれが問題だ約300円が生きるか死ぬかコンビニの電池売り場でLive or Dieの瀬戸際に立たされたぼくは頭のなかでリモコンのサイズ感を多角度的に3Dシミュレートしつつ確か単三だったよなと思うそばからいや単四だったかも知れないと思…
フードプロセッサーという代物は生来備わった残忍さに似合わずバナナジュースとかを生み出すのでまったく侮れない。「幽霊を信じてる?」その問いに即答はできないけれど試しにコンセントを抜いたフードプロセッサーの中に小指あたりをつっこんでみるとなん…
イヤホンと思春期は少し似ている。例えば狭くて閉じられた暗所。状況的には密室。つまりミステリ小説で謂うところの〝ロックドルーム〟。そのような条件を満たす場にイヤホンを放り込むとどうなるか?絡まる。これはどうやら絶対不変の真理であるようで、バ…
プレーリードッグはプレーリードッグである。この一文はまさに、プレーリードッグはプレーリードッグである、ということを示している。一分の疑問や疑念すら滑りこむ余地がなく紛れもなく、プレーリードッグはプレーリードッグである。そう言いきれる。しか…
オト。おと。音。電子音。意識の胸ぐらをふんづかみひねり上げる電子音。ブウウーーーーーーンンンという音ではない。もっとデジタルな音。つまりは電子音。その一種乱暴な行ないに対し意識はその意識を失うことなく、かえって意識の解像度は増していく。ス…
矛盾について。つまり人について。何ものも貫く矛。何ものも通さぬ盾。以上二つの武具を用意する。用意したところで、さて、矛で盾を突いてみる。もしくは盾を矛に押し当ててみる。どうなるか?【ケース①】矛と盾が今まさに接しようとする直前——fin否、これ…
『フライドピザ』という食べ物の存在を知ったとき——これはきっとアメリカ人の仕業に違いない、と即座にピンと来るものがあった。実際にそうだった。期待通りの展開でガッカリすることは珍しい。バター、アイスクリーム、ビール、ジュースの粉……その他諸々。…
石橋を叩いて渡る。叩ける範囲だけ叩いた後で渡るのか、それともしらみつぶしに叩きながら渡るのか、はたしてどちらなのか。前者だとおそらくは石橋の入り口付近しか叩くことが出来ず、用心深い割にはなんとなく手抜き感が否めない。後者だと歩行可能な場所…
ポケモンが20周年を迎えたらしい。20年。20年というと、新生児が新成人になる期間だ。嬰児から成人へ。20年という歳月はひとりの大人を作り出してしまう。そう考えると実に感慨深い。サトシはポケモンマスターになるという夢を未だ果たせずにいると言う。故…
節分から五日が過ぎ、バレンタイン・デーが射程に入りつつある。周辺視野でその存在を主張し始めた。まったく気づかないフリは出来ないものである。二月十四日。それは水よりもチョコよりも濃い血の涙を流して世界を憎むために存在する日。憎悪とは決意の別…
私の、私による、私のためのブログ。べ、別にアンタのために書いてるワケじゃないんだからねっ!カン違いしないでよね変態っ!ふむ。テンプレ的な流れというものはなぜだろう、妙に居心地が良く、なかなかどうして悪くない。書いていて楽しいよ。定番は定番…
たとえその確率が30%だとしても雨に降られてしまうのが、つまりその、人生なのだ。週に一日だけやって来る貴重な休日。週に一日だけやって来るということはつまり月に約四日ほどやって来るということだ。ちなみに年で考えるとだな……ということで、私にとって…
これは言うまでもなく比喩であるが、昔のとある偉い人は「人間は考える葦である」と言った。誰もが一度は聞いたり読んだりしたことがあるだろうと思われるあまりにも有名な比喩。そしてあまりにも使い古されてしまった、手垢まみれの比喩。ところで知ってい…